まさかROASとかCPAをKPIにしてないよね?

「KPI」でGoogle検索をすると、多くの解説サイトでKPIに対する考え方が間違っていることに気が付きました。

そんな状況に危機感を覚え、KPIについて徹底的に解説するコラムを作りました。

わかった気になっていてそれっぽくKPI・KGIを使っていている方は、売上の伸び悩でいることだと思います。そんな方に向けて、戦略見直しのきっかけになれば幸いです。

目次

間違ったKPI設定5パターン

大前提として、ROAS(広告費用対効果)、ROI(投資利益率)、CPA(顧客獲得単価)、LTV(顧客生涯価値)、PV(ページビュー)といった指標をKPIにすることはできません。これらは原則としてKPIではなく“評価指標”や“CSF評価の副指標”に位置づけるべきです。

❌ なぜKPIにすべきでないのか?

  • KPIはKGI(売上、契約件数など)に直結する前段階の“行動の成果”を測る指標であるべきだからです。
    例として、KGIが売上の最大化とする場合、問い合わせ数や資料請求の数をKPIとして設定することは妥当ですが、CPA、ROAS、ROIをKPIとした場合、売上の最大化をKGIにしているにもかかわらず、戦略の戦略の自由度選択肢が狭まってしまいかえってKGIを達成しにくくなるからです。
  • 例えば「CPA3,000円以内」をKPIにすると、獲得効率を優先しすぎて、利益率が低い顧客ばかりを集めてしまい、本来のKGIである売上や粗利を犠牲にするケースがあります。これはKPIが目的化し、戦略を制限する典型例です。
  • 特に成長フェーズや新規顧客獲得フェーズでは、CPAやROIは一時的に下がることも許容されるべきで、それなのに「CPAを下げろ」がKPIになると、KGIより効率が優先されるおかしな構造になります。
  • ROI・CPA・LTVは、どちらかというと成果の効率や収益性を示す指標であり、CSFもしくは、KSFとして捉えるのが妥当です。
指標KPIにできるか?適切な役割・位置づけ
ROI(投資利益率)戦略評価・収益性の分析(CSFの評価)
CPA(顧客獲得単価)効率性の判断(CSFの補助指標)
LTV(顧客生涯価値)顧客の質の評価(事業方針判断)
ROAS(広告費用対効果)広告戦略の効果検証(CSFの評価)
CVR(コンバージョン率)KPI達成のための中間要因(CSFまたはKSF)
PV(ページビュー)KPIの先行指標(CSF評価の補助指標)
SEO順位施策の進捗を示すモニタリング指標(KSFの参考値)

正しいKPI設定6種

KPI候補妥当な理由
問い合わせ件数商談につながる主導線の成果。CSF(SEO・広告)と連動
無料相談申込数契約見込み度が高い行動であり、KGIと因果関係あり
資料請求数見込み顧客の関心行動を可視化できる中間指標
デモ予約数SaaSなどで直接売上につながるアクションである
カート投入数(EC)購入意思の現れであり、CV(KGI)と連動しやすい
体験来店数フランチャイズ・店舗型ビジネスでのCV前段階

絶対ルール:KPIは1つに絞るのが原則

たとえば「問い合わせ数」も「資料請求数」も両方追うと現場は迷います。
どちらがKGIと強い因果関係があるか?で絞り込むべきです。

通販事業例:CPAだけを追いすぎる危うさ

たとえば、1年間ずっと広告経由の売上が横ばいの通販商品があるとします。
このような場合、マーケティング部門では「もっとCPAを下げろ」という指示が出がちです。確かに効率は重要ですが、CPAを下げることばかりに注力してしまうと、売上最大化という本来のKGI達成に必要なチャレンジや施策が抑制されてしまいます

👉 売上拡大をKGIとするなら、KPIにすべきなのは「新規購入件数」「初回購入者数」「定期購入登録数」など、売上に直結する“行動の成果”です。

一方、CPAはあくまで「その成果をどれだけ効率よく獲得できたか」の“評価指標”であり、KPIではありません。

✅ 例:KGIとKPIの適切な関係

  • KGI:年間売上1億円
  • KPI:月間新規購入件数500件
  • CSF:リーチを広げるためのターゲティング戦略+CVR改善
  • KSF:LP改善、リードナーチャリング、メール施策強化
  • CPA:CSF施策が有効かどうかを測る評価指標として利用

この考え方がKGI達成の基本的な考え方です。

ここから本質的なお話をします。

そもそもKGI・KPIだけでは現場は動かない

KGIとKPIを掲げ社員に指示しているのに、なぜか戦略が現場に落ちず、チームがバラバラに動いてしまう。そんな経験はありませんか?KPIが形骸化してしまう根本原因と、KGI・CSF・KPIの正しい関係性を整理しながら、ビジネス現場で一貫性ある行動を生み出すためのフレームワークを解説します。

KGI・KPIの前にゴール(目標言語)を見直す重要性

多くのKPIやKGIの設計で見落とされがちなのが、「ゴール(目標言語)」という考え方です。

ゴールとは、そもそもこの事業やプロジェクトを“なぜやるのか”“何を実現したいのか”という理想の姿を言語化したものであり、メンバーの行動意欲や判断軸の源になります。

このゴールが抜けたままKGIやKPIを設定してしまうと、チームはただの“数字の奴隷”となり、形だけの目標に向かって疲弊してしまいます。

たとえば、「売上を増やす」というKGIや「問い合わせ数を増やす」というKPIがあったとしても、 それが「なぜ必要なのか?」という背景(=ゴール)が共有されていなければ、現場は機械的に動くだけで、改善や創意工夫は生まれません。

だからこそ、KPIやKGIよりも前に、まず“ゴール(目標言語)”を考えるべきなのです。

会社からKGIだけ渡された社員の心の声

  • 「この数字を達成して、何が変わるの?」
  • 「売上目標と言われても、達成しても給料上がるの?」
  • 「また失敗しそうな新規事業任された・・・別にキャリアにもならないのに」

こうした声は、経営者の耳には届きにくいですが、現場では多くのプロジェクトで耳にする“やる気の空白”です。KGIは組織としての到達目標ではありますが、それが自分ごとになるためには、その背後にある『なぜやるのか』=ゴール(目標言語)が共有されていなければなりません。

目標言語が言語化され、共有されたときに初めて、数字が“意味のある挑戦”になり、社員の能動性や創造性を引き出せるのです。

経営と現場を繋ぐKPI設定

ここで一度、全体像を押さえておきましょう。
戦略を本当に機能させるには、以下の5つの要素が“1本の線”でつながっている必要があります。

  1. ゴール(目標言語):どんな未来を実現したいのか(定性的な理想)
  2. KGI:その理想を数値で測るとしたら何か(売上、契約数など)
  3. CSF:KGIを達成するために不可欠な成功要因(戦略)
  4. KPI:CSFが実行されているかを測るたった1つの進捗指標
  5. KSF:KPIを達成するために現場が取り組む具体的な行動や施策

このように、KPIは“結果”であり、上位にあるゴール・KGI・CSFの意図や方向性を正しく反映していないと、ただの管理数値になってしまいます。

さらに具体的に社員ひとり一人に腹落ちる考え方

事例として、中古車査定のフランチャイズ本部で働く社員が、加盟店を増やし売上を5000万円から1億円に増やす仕事を任された例です。

  1. ゴール(目標言語):どんな未来を実現したいのか(定性的な理想)の考え方
    • そもそもこのプロジェクトとか会社で働く楽しさ・やりがいってなんだっけ?
      →車の相場を知らない情報弱者が二束三文に買いたたかれている業界の悪しき習慣を変えたいんじゃなかったけ?売上規模が増えていくと自分たちの社会への貢献度や影響力が増えていき大きな仕事をした実感が湧いてくるよね。
    • どうしたらお客さんにもっと喜んでもらえるだろうか?
      →その中古車査定の良い評判を聞くと、査定したお客さんにも加盟店さんにも喜んでもらえているよね。
    • お客さんにどう喜んでもらえたら自分たちも幸せだろうか?
      →加盟店にうまくいっている報告を聞くとやった買いは感じるよね。
    • ✅このように考えることでプロジェクトに魂が宿ります。
  2. KGI:その理想を数値で測るとしたら何か(売上、契約数など)の考え方
    • お客さんに価値提供できていると胸を張って言える金額っていくらだっけ?
      →加盟店が加盟料以上に稼いでいると胸を張れるよね。
    • この市場を変えていくには市場のどれくらいのシェアを取ればいいんだっけ?
      →業界が○億円市場だから自分たちの会社は売上1億円くらいは稼ぎたいよね。
    • お客さんに価値提供をし続けるためには必要な利益ってどれくらいだっけ?
      →事業維持するには営業利益は〇億円くらいに維持したいよね。
    • 社員たちがやる気になる給料をもらうにはどれくらい売上必要だっけ?
      →社員が○人だから売上○億円くらいは必要だよね。
    • こんな理由で1億円くらいまでは売上増やしたいからプラスあと5000万円増やして1億円が目標だね。
    • ✅“売上=顧客の信頼の総量や社会への影響力”という考えがにじみ出ていて、社員もやりがいが持てるようになります。
  3. CSF:KGIを達成するために不可欠な成功要因(戦略)の考え方
    • お客さんに自分たちの価値を知ってもらうために集客する必要があるよね。
    • 広告よりSEOの方が相性が資産性があるから長期的に見れば利益が残るよね。利益が残ればもっと多くのお客さにリーチして知ってもらえるよね。
    • どのような検索意図に対応するのか?例:中古車査定のフランチャイズを増やすなら「車査定 副業」「中古車査定 フランチャイズ」が競合サイトもなさそうで記事型で上がりやすそうだね。
    • 現状オーガニック経由でのCVRが1%なら2%にするだけで問い合わせ数が2倍になるよね。もしくはSEOコンテンツを増やしてアクセスを2倍にする方が簡単ならその方もいいね。
    • 広告を選ぶかSEOを選ぶか、SEOでもアクセス改善を選ぶかCVR改善を選ぶかののように、“利益を最大化できるチャネルを選ぶ”という判断こそCSFです。
  4. KPI:CSFが実行されているかを測るたった1つの進捗指標の考え方
    • お客さんにリーチできているか図るなら「オーガニック経由の問い合わせ数」を指標にするとわかりやすいよね。
    • ✅KPIは「この1個だけ見れば、戦略(CSF)が機能してるか分かる」ものです。
  5. KSF:KPIを達成するために現場が取り組む具体的な行動や施策の考え方
    • 問い合わせ数を増やすためには、検索ニーズを満たした良質なSEOコンテンツを作る必要があるよね。
    • 良質なコンテンツだけでなく、問い合わせへの導線も設計しておく必要があるよね。
    • ✅CSFが「SEOで見込み客を獲得すること」だとしたら、KSFは「検索意図に合致するコンテンツ制作」「CV導線の最適化」など実行可能なタスクレベルになります。

事例:SEO集客で車査定フランチャイズオーナーを獲得するKPI

🎯 ゴール(目標言語)
 └─ 中古車相場がわからない人でも安心して適正料金で取引できる仕組みを全国に広げ、日本の中古車市場を活性化する。

📊 KGI(数値目標)
 ├─年間KGI 売上1億円(内訳:目標年間加盟契約数 100件×加盟金100万円)
 ├─年間KGI 加盟契約数 100件×加盟金100万円
 └─月間KGI 売上8,333,333円(1加盟店あたり83,333円)

現状年間売上は加盟契約数50件×月間83,333円だとしたら、年間売上は約5000万円ですので残り5000万円の差分をCSFでどう埋めるか考えます。

🚪 CSF(Critical Success Factor:KGI達成の鍵となる戦略要因)
 ├─ SEOオウンドメディアでアクセスを2倍にしてKPIである問い合わせ数を2倍に増やす
 ├─ SEO経由でのCVRを1%から2%に改善する
 ├─ 加盟希望者の信頼を得るWEBサイトのブランド設計とコンテンツ提供
 ├─顧客ごとのニーズに応じた多角的アプローチ(例:週末副業層・脱サラ層・法人層)
 └─ 加盟金1.3倍の上位プランを作り108,333円×39店舗で達成する(⚠️別のKGIに該当

📈 KPI(戦略が機能しているかを測るたった1つの指標)
 ├─ SEO経由の問い合わせ数 月20件
 └─ 現状月間問い合わせ数が10件だとしたら差分のプラス10件をSEOによるオウンドメディアで集客し問い合わせを増やす。

🛠 KSF(Key Success Factor:KPIを達成するための実行要因)
 ├─ 検索意図に合致した良質な記事を継続的に発信(週◯本)
 ├─ 商談につながりやすいキーワードの選定(商談率×検索数)
 ├─ CTA改善、フォーム短縮、導線最適化
 ├─ 導線設計(記事→LP→CV)の分かりやすさと操作性
 ├─ インタビュー記事や体験談による“信頼獲得コンテンツ”
 └─ 定期的なSEO順位とCVRのチェック→改善サイクル

まとめると、

現状、毎月10件の問い合わせ数によって50件の加盟店が集まり、年間5000万円の売上が達成できているとすれば、あと50件増やすことで年間1億円というKGIに到達できる見込みです。

単純計算で、問い合わせ数を月20件に増やす必要があります。ではどうやって増やすか?

  • アクセス数を現在の1000件から2000件に増やす(SEO流入を倍増)
  • CVR(問い合わせ率)を1%から2%に改善する(導線改善・CTA設計・フォーム最適化)

このどちらを優先すべきかは、実際のアクセス状況・コンテンツ・CVポイントのデータから判断する必要があります。

例えば、CVR1%に近いSEOのコンテンツを量産できるのであれば、アクセスを増やすことに予算を割くが良さそうです。

一方でフォームでの離脱が70%以上であれば、フォーム改善に取り組んでCVRを上げた方が費用対効果が高そうです。どちらが最適解なのかは、アクセス、ページスクロール率、フォーム送信完了数といった各数値が出そろって定量的に判断するのが良いでしょう。

ここで重要なのは、「KGI(売上)」と「KPI(問い合わせ数)」が因果関係でつながっており、その達成手段がCSF・KSFとして明確化されているという点です。

正しいマーケティングKPI設定

以下に、混同されやすい主要な指標を「KGI向き」「KPI向き」「CSF向き」「KSF向き」に分類してまとめます。

指標KGI向きKPI向きCSF向きKSF向き
売上
粗利
営業利益
問い合わせ数
新規顧客数
資料請求数
無料相談申込数
カート投入数(EC)
デモ予約数
体験来店数
CV数(コンバージョン数)
SEO流入数
広告クリック数
PV(ページビュー)
SEO順位
広告配信設計
記事本数
CTA導線設計
フォーム改善
CPC(クリック単価)
CPA(顧客獲得単価)
ROI(投資利益率)
ROAS(広告費用対効果)
CVR(コンバージョン率)
UU(ユニークユーザー数)
LTV(顧客生涯価値)✅(事業評価指標)

正しいKPIを経営と現場に反映させる方法

ゴール(目標言語)」とKGI・KPIの考え方は理解できたけど、上司や部下を説得させたいあなたのために5つの方法を用意しました。

① 感情を揺さぶる「問い」から始める(=共感)

  • 「このプロジェクト、なんでやってるんでしたっけ?」
  • 「この売上目標って、誰のため?何のため?」
  • 「この数字が達成されたとき、私たちってどうなっていたい?」

→ 「ゴール(目標言語)」の大切さに、みんなの実感を引き寄せる導入になります。

② 実例で5つの要素の関係性を“見せる”

例として、以下のようにボードやスライドで可視化します。

🌟 ゴール:中古車相場がわからない人でも安心して適正料金で取引できる仕組みを全国に広げ、日本の中古車市場を活性化する。

📊 KGI:年間契約数100件(売上1億円)

🚪 CSF:SEOで安定的に見込み顧客を獲得する

📈 KPI:問い合わせ数 月20件

🛠 KSF:記事制作/CV導線最適化/検索ニーズ対応

→ 見える化することで、「あ、この数字には意味があるんだ」と腹落ちさせることができます。

③ 「KPIが形骸化する理由」を“自分たちの過去の体験”に紐づける

  • 「前にPV数だけを追ってたけど、売上に繋がってなかったよね?」
  • 「KGIは決まってるのに、行動にバラつきがあったよね?」

→ 「だからゴール→KGI→CSF→KPI→KSFでつながないとダメなんだ」という流れに導けます。

④ 実践してみせる:「このプロジェクトに当てはめてみたんだけど」とテンプレ提示

🧠 腑に落ちる言葉で考えるフレーム
以下のシートを使えば、ゴールからKSFまでを一貫して整理し、全社・全プロジェクトが「なぜ・何を・どうやって・どう測るか」を一本の軸で動かせるようになります。

要素内容自社へのあてはめ(記入欄)
ゴール(目標言語)なぜこの事業をやるのか?どんな未来を実現したいのか?例:「誰でも公平に適正価格で車を売却できる」
KGI(数値目標)ゴールを数値で測るなら何か?例:年間売上3億円、加盟契約数100件
CSF(成功要因)KGIを達成するために戦略的に不可欠な成功要因例:SEOを通じた見込み顧客の安定獲得、信頼される情報設計
KPI(進捗指標)CSFがうまく機能しているかを見る“たった一つの成果指標”例:SEO経由の問い合わせ数 月20件
KSF(実行要因)KPIを達成するために現場が日々取り組む具体施策例:検索意図を満たす記事作成、CVR改善、LP導線整備

このまま使って、「まず自分で整理してみました。みんなでやりませんか?」と提案すれば、理論でなく実行する文化になっていくでしょう。

⑤ プロジェクトメンバーに「あなたの言葉で言い換えてみてください」と促す

→ 特にゴールとKSFは、自分の言葉にしないと動けない部分だからです。

KPIの間違い事例

Q. KGIは複数あってはいけないのか?

👉 答え:複数あっても問題ありません。ただし「目的に対して矛盾しない関係」であることが大前提です。たとえば…
目標売上:1億円
これを達成する手段は2パターンあります。

  1. KGI① 加盟契約数100件 × 加盟金100万円
  2. KGI② 加盟契約数90件 × 加盟金111万円(単価10%UP)

このようにKGIは「ゴールを実現するための到達点」であり、
パターンやシナリオとして複数持っておくことがむしろ戦略的です。では、どう考えればいいのかというと、「どのKGI構成が現実的で、実行可能で、競争優位をつくれるか?」という戦略判断が必要です。その判断の根拠がCSF(成功要因) になります。

方向性KGIの組み立て意図
加盟数を増やす加盟数100件 × 加盟金100万円顧客接点数とCVR向上に注力(問い合わせ数UP)
単価を上げる加盟数90件 × 加盟金111万円ブランド価値・サービス内容の強化に注力(価値設計)

➡ この 戦略選択の判断基準こそCSF
「問い合わせ数増加」と「付加価値強化」は、戦術的には異なります。

Q. なぜKPIを複数設定すると危険なのか?

焦点がブレる

KPIを2つ3つと設定すると、「どれを優先すべきか」が曖昧になり、チームの行動が散漫になります。 たとえば、「問い合わせ数もPVもCVRも全部追って」と言われた場合、現場は「何を目指して動けばいいのか」が分からず、結果的に“全部中途半端”になります。 特に、リソースが限られた中小規模のチームでは、ひとつに絞れていないことが生産性の大きな阻害要因になります。

現場が迷子になる

KPIが複数存在し、どれも同等に重視されると、現場は「成果が出ていないのは、どのKPIが悪かったのか?」という判断ができなくなります。 さらに、「記事数もPVもCTRも全部増やしてくれ」と言われると、戦略的な思考ではなく「作業消化型」の仕事になり、誰も本質的な改善に意識を向けられません。

KPIがKPIでなくなるから

KPIは「Key(最重要)Performance Indicator」です。 本来は“1つに絞ることで、何をすれば成果に直結するかが明確になる”ための指標です。 しかし、複数KPIを設定してしまうと、「これはKPIなのか、ただの進捗チェック指標なのか」が曖昧になり、KPIがただの“報告用数値”になってしまいます。KPIは「判断の軸」であって、「見せるための指標」ではありません。

Q.KGIは年間で考えるべき?月間で考えるべき?

KGIは「達成すべき成果」を数値で示す指標ですが、年間・月間どちらで設定すべきかは目的によって異なります。

  • 年間KGIは「全体のゴール」を示す長期的な指針として有効です。経営層や全社目標の共有に使われやすく、「売上1億円」「契約数100件」などのように用いられます。
  • 月間KGIは「進捗の健全性を確認するためのマイルストーン」として活用されます。たとえば、年間契約数100件のKGIがあるなら、1ヶ月あたり8〜9件の達成が必要という目安になります。

両方を使い分けるのがベスト

  • 年間KGI:大きな目的地(組織の指針)
  • 月間KGI:そのためのナビゲーション(健全性チェック)

👉 つまり、“年間KGIを設定した上で、それを分解した月間KGIを併せて持つ”のが戦略運用として理想的です。

これにより、経営層と現場の両方が「最終目標」と「日々の達成感・危機感」を共有できるようになります。

Q.加盟金83,333円の1.3倍(108,333円)上位プランを作50店舗ではなく、39店舗でKPIの1億円を達成するのはCSFの考え方として妥当か?

❌「加盟金を1.3倍にする」はKGI構造の別シナリオであり、CSFではありません。これはKGIの構成を再設計する別ルートにあたります。CSFというより「KGIを満たすための“代替KGI案”」に近い考え方になります。加盟金83,333円がKGIシナリオAだとすれば、1.3倍のプランはCSFではなくシナリオBと言えます。

📌 整理された理解で言い換えると

役割内容
KGI(年間)売上1億円(= 加盟数 × 単価)
KGI案A100件 × 100万円(単価変えない)
KGI案B90件 × 111万円(単価UP)
CSF「アクセス増」「CVR改善」「ブランド信頼性」「セグメント対応」など
KPI問い合わせ数(例:月20件)
KSFコンテンツ改善、CTA最適化、記事配信、フォーム改修、LP改善など

👉 このような場合は、KGIの複数シナリオの1つとして捉えそれを実現するためのCSF(例:高価格帯の価値訴求)を別で設ける必要があります。

Q.ROI(投資対効果)やCPA(顧客獲得単価)をKGIにしてしまうと、どんなことが起こる?

❌ KGIにROIやCPAを設定してはいけない理由

1. ROI・CPAは“結果”ではなく“効率性の指標”だから

KGIは、本来「ゴールに対する到達度(成果)」を表す数値。

一方でROIやCPAは「その成果を得るために、どれだけ効率よくやれたか」を示す“評価軸”です。

👉 つまり、ROIやCPAはKGIの達成方法を評価するための分析指標(CSFや観察指標)であって、KGIそのものではありません。

2. ROIやCPAをKGIにすると「目的と手段」が逆転する

本来の目的が「売上を1億円にすること」なのに、KGIに「ROI200%以上」を設定してしまうと…ROIを優先するあまり、本来投資すべきマーケティング施策が“非効率”と判断されて切り捨てられることが起きます。

本質的に意味のある施策(CSF)が除外されるリスクがあります。

3. KGIが“マーケ指標”になると全体最適を損ねる

ROIやCPAは多くの場合、マーケティング部門単体で完結する指標です。それをKGIにすると、営業・商品開発・カスタマーサポートなど他部門との連携が置き去りになります。

👉 全社視点のゴール(KGI)でなく、部分最適のKPIをKGIと誤認することになるのです。

例①:ROIをKGIにしてしまったマーケティング部門

  • KGI:広告のROIを300%にする
  • 結果:広告費の効率を最優先し、見込み客の質より「安く獲れるリード」ばかりに偏重
  • 問題:営業部門には“質の低い顧客”が流れてきて、成約率が下がる

👉 本来のゴールは「売上最大化」なのに、ROIをKGIにしたことで、営業・商品開発との“全体最適”を失ってしまった

例②:CPAをKGIにしたECチーム

  • KGI:CPA5,000円以内で新規顧客を獲得
  • 結果:1回限りの購入や、リピートしない顧客ばかりを集めるキャンペーンに偏る
  • 問題:LTV(顧客生涯価値)が上がらず、長期的には赤字に

👉 数字は達成しているが、本来の成果(KGI=売上や利益)にはつながっていない

KPI設定で絶対に守るべき鉄の掟

組織の戦略を現場で“自分ごと”として機能させるために、次の5つの鉄の掟を共有しておきます。

🧱 鉄の掟①:「ゴール(目標言語)」なき数字は、現場を動かさない

数字(KGIやKPI)だけでは、意味もやりがいも見えません。まずは「なぜこのプロジェクトをやるのか」「お客さんにどう喜ばれたいのか」を明文化せよ。

🧱 鉄の掟②:KGIとKPIは“因果”でつながっていなければならない

KPIは単なる管理指標ではなく、KGI達成への“因果関係”を証明する一手段。数字が連動していなければ、戦略はすぐに形骸化する。

🧱 鉄の掟③:KPIは“たったひとつ”に絞り込め

KPIは「最重要指標(Key)」である以上、複数設定してはいけない。迷ったら「この1つさえ達成できれば、成果に直結するものはどれか?」で考えよ。

🧱 鉄の掟④:CVRやPVなどの周辺数値はKPIではなくCSF/KSFとして扱え

アクセス数・CVR・記事数などはKPIではない。KPIを達成するための手段であり、CSF(戦略)かKSF(施策)に分類すべし。

🧱 鉄の掟⑤:5つの要素は“1本の線”でつながっていなければ意味がない

「ゴール→KGI→CSF→KPI→KSF」は、全員が共通言語として語れる状態にせよ。戦略と現場の言葉がずれている限り、組織は前に進まない。

まとめ

  1. まず「何のためにやっているのか」(ゴール)を言語化する
  2. ゴールを数字に落としたKGIを設定する
  3. そのKGIに直結する戦略的要因(CSF)を明確にする
  4. CSFを体現する“たった1つの指標”としてKPIを設定する
  5. KPI達成に向けた具体的行動(KSF)を現場で実行できる形にする

KPIは、戦略が機能しているかを測る“唯一の窓”です。 その窓を曇らせないために、まずは「目的」と「成功の鍵」をクリアにしましょう。


このフレームで考え直せば、KPIは形骸化するどころか、組織を前に進める最強の羅針盤になります。

小長谷直登のイメージ
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小長谷直登
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